右手を眺めて

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私は、脳出血の後遺症で右半身不随となり、後にうつ病に陥ってしまった自分の手記を綴り始めた。半身不随とうつ病に向き合うために。 身体障害と精神病。これらを正面から向き合って理解すること。これは私にとって過酷な作業であり、また時には残酷な作業でもある。

釣り

横須賀の野島って沖提へ釣りに行ってきただよ。
釣行記はこちらから↓
http://www.otomiya.com/xoops/modules/bluesbb/viewsread.php?topic=4&sread_id=996&number=l50
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退院

皆様、ご無沙汰しておりました。
去年の暮れから精神病棟に入院しておりまして、皆様のコメントにレスもできない状態でした。ごめんなさい。
お陰さまで昨日退院し、また活動をはじめようと考えております。

この病気、長い付き合いになりそうです。
気長に治そうと考えていますので、宜しくお付き合い願います。

まずは退院のごあいさつまで・・・
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手紙3

君とは遥か昔から一緒だったような気もするし、つい最近出会ったような気もする。不思議な気持ちだ。

僕が病気になった時のこと、憶えているかい?
度々発作を起こして、自分が自分でないような頃だった。そんな頃、自分を受け入れられずにいた僕に「自分を嫌いにならないでね」って言ってくれたよね。
あの一言で、僕がどんなに救われたことか・・・どんなに安心できたことか・・・
もう大丈夫だよ。僕は病気になった僕を嫌いになんかならないから。病気が嫌がることはしないから。

君にはいろんな事を教わったね。生きるために大切なことを沢山。
今、僕が僕でいられるのは、君と一緒に生きてきたからかもしれない。それくらい沢山のことを君は教えてくれたんだよ。

君が膠原病と知った時、それでも子供を生むと言った時。
家族三人で暮らし始めた時、僕一人で東京へ働きに行ってしまった時。
息子を育てていた時、息子が独立した時。
食事をしている時、寝ている時。
笑っていた時、泣いていた時。
いつだって君がいたんだ。僕の傍にいたんだ。

僕の周りには君の足跡が溢れかえっているんだ。
それだけで切ないほど幸せだから・・・

ありがとう。


凛として 前を見据えよ 冬すみれ

手紙2

母さん、分かりますか?僕です。
と言っても、この手紙を母さんはもう読めなくなっているかもしれませんね。
母さんが自分だけの世界に生き始めて、もうどれくらい経つのでしょう。僕の病気の事もおそらく知らないのでしょう。

先日、またあの夢を見ました。潮干狩りの夢です。父さんと母さんと3人で行ったバス旅行の夢です。
僕は母さんのスカートにつかまって、海へ続く道を歩いているのです。先を歩く父さんの背中は力強く、見上げた母さんは優しく綺麗でした。
ただそれだけが印象的に頭に残っています。
あれは現実だったのか、僕の妄想が生み出した夢だったのか、もう確認はできません。でも、そんな幸せな夢を見れることが嬉しくて・・・

母さんは自分だけの世界でどんな夢を見ているのでしょう?
辛かった時代の夢でしょうか、楽しく暮らした時代の夢なのでしょうか。
夢の中、父さんは元気なのでしょうね。僕は・・・相変わらずの我侭息子なのでしょうね。

母さん、僕にはどうしても叶えたい夢があります。
僕が元気になったら、母さんとお墓参りをするんです。母さんも僕も元気だった頃のように、父さんのお墓参りをするんです。
僕が運転する車で、母さんは助手席で・・・

きっと・・・
きっと・・・叶いますよね・・・

手紙1

父さん、僕は父さんに謝らなきゃいけないことがあります。
僕は父さんとの約束を破ってしまいました。

父さんが癌との闘病中、僕に言ってくれましたね。
「体だけは大事にしろよ」って。
僕、約束を破ってしまいました。
父さんが逝ったあの後、僕は脳出血を患ってしまい、今では精神病院入院する体になってしまいました。
この約束、いつかは破るときが来ることは分かっていましたが、こんなに早く・・・
父さん、ごめんなさい。

病棟には父さんと同じくらいの年格好の患者さんがいます。父さんと同じように病気と闘っています。
父さんの年代の人達は凄いですね。鍛え方が違うというか・・・弱音を吐きません。あくまで闘い抜こうとしているようです。
父さんも、最期までそうでしたね。

僕にはとても真似が出来ません。主治医の先生も「真似しろ」なんて言いません。むしろ、「真似するな」と言います。
この病気、なかなか体から離れてくれないようなんです。だから、「闘うな」と、先生は言います。
父さんに言わせれば「軟弱者の考え方だ」と叱られそうですが・・・
でも、僕は決めました。「病気と仲良くして、病気が嫌がることをしない」と決めました。
僕も決めたからには実行します。父さん譲りの頑固さでね。

父さん・・・父さんの所へ行ってしまおうと、馬鹿なことを考えたこともありました。それこそ「軟弱者」になりそうなこともありました。
でも、こんなことで父さんのところへ行ったら叱られそうで・・・やめました。

父さん。僕は生き恥を晒しているのかもしれません。たぶん、そうです。
だけど、父さんに会えるのはずっと先になりそうです。
最近、父さんを思い出す度に、僕はしたたかに生きる覚悟ができたように思えるのです。

26話

とうとうやっちまった。
右手をぎゅっと広げて、左手の包丁で・・・

ごりっ。最初は骨にぶつかった。
さくっ。二度目は親指と人差し指の間を突き抜けた。

「ばかぁ!!」
女房がオラァの左腕にしがみついて、包丁を取り上げる。
思いっきり叩かれたで。何度も叩かれたで。

オラァ変な満足感に浸ってた。
流れ出る血を見てただ。何の感情もなく、ただ見てただ。


「先生、やっちまったです」
「怪我の様子は?」
「指も動くし、自分で血ぃ止まったっす」
「・・・・」
「もう、大丈夫っすから」
「尋常ではないですね。うつの症状はひとまず置いておいて、この症状を食い止めなければいけませんね」
「この症状?」
「そうです。私がこの症状を見て、何を疑ってると思いますか?」
「このって・・・統合失調症っすか・・・」
「そうです。珍しいケースですが、統合失調症を食い止めなければ危ないですね」
「危ないって・・・?」
「齊藤さんの身の危険ですよ」
「・・・」

こんなんで、オラァうつ病の他に統合失調症を診断されちまっただ。
たまに、脳障害の患者にいるそうだ。脳卒中がきっかけで統合失調症になるってのがな。
オラァの場合、年齢や脳出血からの時間からみて、珍しいんだと。

なんにしても、また薬が増えたってことさね。
そのくらいに考えておくことにしただ。
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25話

「どうすんの?」・・・女の声。
「ばぁか」・・・男とも女ともつかない声。
クスクスと遠くで笑い声。
ボソボソと耳元で話す声。

幻聴が始まっちまった。
普通、うつ病で幻聴はないって先生言ってたけど、聞こえるだ。
これが始まると、きまってやりたくなる事があるだよ。
ボソボソと、何言ってるだかわからねぇだけど、こうしろって言ってるみてぇなんだ。

・・・・・
こうしてな、右手をテーブルに広げろ。
もっと広げろ。ぎゅうっと広げろ!
よし、そうだ、そのまんまだぞ。
左手、包丁を持て。
力いっぱい握るだぞ。
そうだ、その調子だ。
ほれ、思いっきりやってみろよ。
右手を何度も何度も刺してみろ。
思いっきり刺してみろ!
・・・・・

オラァ恐くて恐くて。
「オラァおかしくなっちまっただねぇかやぁ」
「大丈夫だって。そんな脅しにのっちゃだめだよ」
女房は気を楽にしてくれるけど、オラァ・・・
先生には薬をもらっただ。幻聴が聞こえたら飲めばいいって。
飲むと体がだるくなってな、何にもする気がしねぇだよ。

「ちょっと婆ちゃん家、行ってくるから。何かあったら電話してね」
「・・・あぁ・・・」
「大丈夫?」
「・・・・・」
オラァ体はだるいだけど、気持ちがぴんぴん跳ねるように恐かった。
一人んなるのが恐かっただ。
「一緒に行く?車で寝ててもいいし・・・」
「・・・あぁ・・・」

しばらく、こんなのが続いたっけ。
耳の後ろに誰かいるようで、びくびくしてただ。
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24話

ドルゴルスレン・ダグワドルジという青年が故郷へ帰っていったで。
解離性障害を治すために、故郷モンゴルへと帰っていっただよ。
彼の職業は関取、横綱。所属は高砂部屋。

協会はいろんな注文をつけたみてぇだなぃ。
協会の注文を守るように、付き人が交代で監視するとか・・・
あの人らはドルゴルスレン・ダグワドルジ君の病気を理解してるんんかやぁ?

解離性障害ってのはこんな病気だで。
http://homepage1.nifty.com/eggs/syuhen/kairi.html
「境界例と自己愛の障害からの回復」より
会社でこの病気になったらどうする?
休むわなぁ。休職届けを出して治療に専念するわなぁ。
「ゆっくり休んで治して来いよ」なんて言われて、休ましてもらうわなぁ。
あの協会ってのは、そうゆうとこがねぇだな。

オラァ、ドルゴルスレン・ダグワドルジ君が可哀そうで仕方がねぇだよ。
若いみそらで日本へ来て、頑張って横綱んなって、あにがあっただか病気になって。
彼がどう思ってるだか知らねぇが、オラァ、可哀そうで可哀そうで。

人間、何よりも大事なのは健康だで。
仕事でもねぇ、肩書きでもねぇ、健康な体が一番だでなぁ。
オラァ、言ってやりてぇ。、
「故郷ぉ帰ったら、ゆっくりして、ちゃんと治療に専念するだぞ」
って、言ってやりてぇよ。
「いっぱい頑張ったもんなぁ。ここらでゆっくり休むもいいだねぇかぁ」
って、優しくしてやりたくなっちまう。
相撲関係者で、マスコミ関係者で、彼に優しく言ってやってくれる奴はいねぇだか?
そんなんじゃ、淋しすぎるで。切なすぎるで。

「ドルゴルスレン・ダグワドルジ君、あんたぁよく頑張った。たいしたもんだで。 故郷ぉ帰ったら、父ちゃんにも母ちゃんにも甘えて、ゆっくり養生しれやなぁ。」
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23話

このところ、何かがおかしい。
頭ん中の何かが狂ってきたみてぇだ。
妄想するようになっちまっただよ。妄想が頭ん中で一杯になっちまうだ。

例えば中学んとき、淡い想いを懐いてた女の子。
頭ん中でその子のことが一杯になって、今じゃ一緒に住んでるだ。オラァの女房になってるだよ。
変だず?でもそれが現実みたいに感じちまうだ。
今の現実が薄れてって、どっちが現実だかわかんなくなっちまうだ。

例えば仕事のこと。
今日は休みで、明日からまた畑仕事が待ってるだ。
明日はマルチ敷かなきゃなんねぇもんで、その段取りをしてるだ。
部長にも連絡しとかなきゃなぁ・・・なんて考えてるだよ。

例えば息子のこと。
奴ぁ神奈川で頑張ってるかやぁ。たまにゃ連絡くれりゃぁいいになぁ。
息子はもう帰ってきて、街のアパートで暮らしてるってのに・・・

そんなこと本気で考えて、本当の生活が現実じゃねぇような感覚になっちまうだ。

診察日、先生に聞いてみただ。
「なるほど、出ちゃいましたか」
「出ちゃったって?」
「それ、薬の副作用です。シンメトレルの副作用でしてね、強い人は幻覚を見る人もいるんです。脳障害のある方にいい薬なんですが・・そうですか、それなら他の薬に・・・ルジオミールにしてみましょう」
「・・・」
「効果はほとんど同じですが、また変なことがあったら知らせてください」

それから1週間くらいで妄想は少なくなってきたが、今度はひどいだるさが続いてるだ。
薬が替わったときはいつもだで。
朝飯食って朝寝して、昼飯食って昼寝して・・・なんのために生きてんだかわかんなくなっちまう。

先生は、「こんなことを繰り返しながら徐々に治っていくんですよ」って言うけど、なんか不安でなぁ、イライラしてみたり焦ってみたり・・・
まったく忙しい病気だでなぁ。
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22話

ずっと「うつ」が続いてた。
一週間・・・いや、二週間。
一日中寝てる日が多くなった。

「先生、こんなんで治るんだろうか?」
「治りますよ」
「・・・薬、飲んでもあんまり・・・」
「今は波の谷間です。以前の谷間よりは快方に向かってますよ」
「オラァ、辛くて・・・」
「なるほど、何が辛いんですか?」
「・・・なんもかも・・・」
「斉藤さん、貴方の右手は辛く感じますか?」
「・・・」
「右手をどう感じますか?」
「右手は・・・やだ。上手く動かねぇし・・・」
「なるほど。それも辛い原因になってませんか?」
「いや、こりゃぁもう仕方がねぇって解ってますから」
「そうですね、仕方がない事ですよね」
「はい」
「ではその右手、もう馴染みましたか?」
「・・・馴染むっちゃ馴染んだし・・・もちょっとっても思うし・・・」
「そうですか。なるほどね・・・」
「・・・」
「・・・斉藤さん、僕の治療を手伝ってもらえませんか?」
「???」
「斉藤さんの病気には二つの原因があるようです。まずは脳にダメージを受けたことによる脳内分泌の異常。次は脳にダメージを受けたことによって失われた機能への悲しみ。どうですか?二番目の原因に思い当たることはありませんか?」
「いや、こりゃぁもう仕方がねぇってことは頭じゃ解ってるだけど、リハビリで無理に動かす時、吐き気がすることがあるんす」
「そうですか・・・二番目の原因ですね」
「・・・でも、解ってるんすよ」
「はい、解っていてもどこかで悲しんでるんです。馴染んでいないんですよ」
「・・・」
「斉藤さん、うつ病に対する投薬治療は私の責任でやらせてもらいます。でも、二番目の原因は貴方しか治せません。もちろん私もお手伝いはさせていただきますが、貴方にもお手伝いしていただきたいんです」
「・・・どうすりゃ・・・」
「貴方の悲しみを受け止めて、その悲しみを乗り越えるんです」
「・・・はぁ・・・」
「すぐとは言いません。少しずつ、二人で治していきましょう」

オラァのどこかにある悲しみを見つけて、受け止めて、乗り越える・・・か。
先生も難しいことぉ言いやがるで。
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